胸郭出口症候群


「胸郭出口症候群とは」

胸郭出口症候群

胸郭出口症候群は、腕や手指を動かしたり感覚を伝える神経(腕神経叢)や血管(鎖骨下動脈と鎖骨下静脈)が、下記の3ヶ所の胸郭出口で圧迫されて、神経障害と血流障害による腕や手指のしびれ痛みを生じる疾患です(図1参照)。

 

①前斜角筋と中斜角筋の間で圧迫(斜角筋症候群)

 

②鎖骨と第1肋骨の間で圧迫(肋鎖症候群)

 

③小胸筋と肋骨の間で圧迫(小胸筋症候群または過外転症候群)

 

 

頚肋

又、胸郭出口を横切る、頚椎に出来た余分な肋骨(頚肋)と、そこかろ伸びる線維帯が圧迫の原因となる事もあります(図2参照)。

 

頚肋の大きさは様々で、上図の①の部位に硬いしこりを触れると頚肋の可能性が高くなります。診断を確定するにはレントゲンで検査する必要があります。

 

頚肋は通常、両側性に見られる事が多く、一側だけに見られる場合は、右よりも左に多いと言われています。

 

胸郭出口症候群は、20~30代の首が長く(首が不安定で頚の周りの筋肉が緊張し易い)、なで肩(肋骨と鎖骨間が狭い)の女性に多く、女性が男性の2~3倍です。

 

「症状」

症状が強ければ持続性の疼痛やしびれを示しますが、通常は、上記の3ヵ所の胸郭出口が狭くなる動作でしびれや痛みが現れたり、増悪します。

 

例えば、髪にドライヤーをあてたり、洗濯物を干したり、つり革につかまる等、上肢を挙上した位置での作業や、重い荷物を持ち歩く、リュックサックや重いカバンを肩にかける等で増悪します。

最近では、スマホやパソコンを同じ姿勢で長時間続けることにより、頚や肩の周りの筋肉の緊張が高まり、発症する人も多いようです。

 

症状は、動脈、静脈、神経の圧迫される部位により様々です。

 

手にしびれや痛みを起こす、頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症、肘部管症候群筋肉からの関連痛等と鑑別する必要がありますが、これらの疾患が合併する事もあります。

 

「神経圧迫症状」

知覚神経が圧迫されると、しびれや知覚鈍麻は、斜角筋症候群の場合は上腕や前腕の内側、手の尺側(小指側)、薬指や小指(C8、T1領域)にある事が多く、肋鎖症候群と小胸筋症候群の場合は手全体に症状が現れます。

 

運動神経が圧迫されると、肘を伸ばす筋肉(上腕三頭筋)、指を細かく動かす筋肉(手内筋)などに筋力低下を訴え、握力が低下し細かい手作業が困難になります。

 

通常は、知覚障害が運動障害に先立って現れます。

 

自律神経圧迫症状として、指が白っぽくなる(レイノー現象)、手の熱感、発汗異常も稀に見られるようです。

 

「動脈圧迫症状」
血行不良による、易疲労感、しびれ、冷感、痛み、感覚障害、手が白っぽくなるなどの症状が見られます。

 

「静脈圧迫症状」
静脈とリンパ液のもどりが悪くなり、上肢のむくみ、痛み、血管(静脈)が浮き出る、手が青紫色(チアノーゼ)になるなどの症状がみられます。

 

「筋肉からの関連痛

緊張して悪くなった、斜角筋(TPによる体幹上部と上肢の痛み・1、図2参照)や小胸筋(TPによる胸部と上肢の痛み・2、図7参照)や、これらの筋肉に関連した筋肉(協力して働く筋肉や、拮抗して働く筋肉)からの関連痛が生じます。

痛みは通常、肩甲骨部、前胸部、肩、腕、手などに鈍い持続する重い痛みが広がります。

 

「検査」

患者さんに症状を誘発するような姿勢をとらせて検査します。

胸郭出口症候群では、以下の検査が陽性になります。

 

「モーリーテスト」

上図の斜角筋の①の部分を圧迫すると、圧痛と上肢への放散痛が生じます(モーリーテスト陽性)。

 

「アドソンテスト」

アドソンテスト

腕のしびれや痛みのある側に顔を向けて、そのまま首を反らせ(前斜角筋が緊張する姿勢)、深呼吸を行なわせると鎖骨下動脈が圧迫され、手首のところの動脈(橈骨動脈)の脈拍が弱くなるか触れなくなり、しびれや痛みが誘発または増悪します(アドソン テスト陽性・図3)。

「エデンテスト」

エデンテスト

座位で胸を張らせ、両肩を後下方に引かせると(肋骨と鎖骨の間が狭くなる姿勢)、手首のところの橈骨動脈の脈拍が弱くなるか触れなくなり、しびれや痛みが誘発または増悪する(エデン テスト陽性・図4)。

「ライトテスト」

ライトテスト

座位で両肩関節を90度外転、90度外旋、肘を90度屈曲位をとらせると(肋骨と鎖骨間が狭くなり、小胸筋が緊張する姿勢)、手首のところの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなり、しびれや痛みが誘発または増悪します(ライト テスト陽性・図5)。

 

「ルーステスト」

ライトテストの姿勢で、両手の指を3分間屈伸させると、手指のしびれ、前腕のだるさのため持続ができず、途中で腕を降ろしてしまいます(ルース テスト陽性)。

 

「治療」

まずは、骨盤、腰椎、胸椎、頚椎をチェックして全体のバランスを取るように矯正します。

斜角筋への神経支配は頚椎の2番から8番、小胸筋は頚椎8番から胸椎1番です。

頚椎の異常は斜角筋と小胸筋の緊張につながります。

 

第一肋骨は第1胸椎と関節を作る為、第1胸椎のズレの影響も受けます。

 

全体のバランスが取れると、神経の流れも正常に戻り、胸郭の周りの緊張が緩みます。

 

体全体の経絡の調整によっても胸郭の周りの緊張が緩みます。

 

3つの胸郭出口へのアプローチとしては、斜角筋の緊張により、上方へ引き上げられ可動性が減少した第一肋骨と、小胸筋の緊張により、下方へ引き下げられ、可動性が減少した鎖骨と肩甲骨を矯正し可動性を改善します(斜角筋と小胸筋の緊張により3つの胸郭出口が狭くなります)。

 

小胸筋、斜角筋、それらに関連する筋肉(拮抗する筋肉と共同して働く筋肉)の反応点への鍼治療や徒手による治療も有効です。

 

又、小胸筋や斜角筋などへのストレッチも有効です。