「しびれ」について


「しびれ」は非常に訴えの多い自覚症状です。

 

「しびれ」は単独で現れる事もありますが、痛みが治る過程で「しびれ」が現れたり、「しびれ」と痛みが混在したり、「しびれ」が痛みに変化するなど、痛みと「しびれ」は密接に関係しています。

 

「しびれ」には異常感覚、感覚鈍麻、運動麻痺の3つの障害があります。

 

筋肉が麻痺して力が入らない時(運動麻痺)でも「しびれ」として訴えられる事がありますが、「しびれ」という言葉は主に運動神経の異常よりも感覚神経の異常(異常感覚、感覚鈍麻)に対して用いられる事が多いようです。

 

異常感覚はビリビリ、ジンジン、チクチクしたような感覚や腫れたような感覚、又は少し触れただけでも痛みとして感じる状態です。

 

異常感覚は患者さんが「しびれ」として一番自覚し易い障害です。

 

感覚鈍麻は触られても感じにくい、又は感覚が無くなった状態です。

 

正座の時の「しびれ」


よく経験する「しびれ」というと、正座をした時のビリビリ、ジンジンした感覚を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

 

なぜ、正座をすると「しびれる」のかを考えてみましょう。

 

正座を続けると膝から下の循環が悪くなります。

 

循環障害が続くと神経に酸素と栄養の不足が起こり、神経の代謝が障害されます。

 

神経は太いほど圧迫による循環障害の影響を受け易く、同じ位の太さだと感覚神経の方が運動神経より圧迫の影響を受け易くなっています。

 

正座を続けて最初に障害されるのは、太い触覚(触った感覚)を伝える神経です。


この太い触覚の神経は、中枢(脳・脊髄)で痛みを感じる細い神経を抑制しています。

 

触覚が鈍くなってくると(感覚鈍麻)、中枢での痛みの抑制が無くなり、痛みを感じる細い神経からのジンジン、ビリビリとした「しびれ」(異常感覚)が現れます。

 

その後、太い運動神経が障害されて力が入らなくなりますが(運動麻痺)、座っている間は気が付きません。

 

更に座り続けると、痛みを感じる細い神経が刺激されて興奮(異常放電)し、ジンジン、ビリビリした感覚に痛みが伴い、激しい「しびれ」に変わっていきます。

 

その後、痛みを伝える細い神経も麻痺して、その「しびれ」の感覚も消失してきます。

 

そして、足をくずして立ち上がろうとすると足に力が入らず、筋肉が麻痺している事に気が付きます。

 

又、足をさすった時に感覚が鈍くなっている事にも気が付くでしょう。

 

「しびれ」は足をくずすと血流が再開し、これまでと逆の経過をたどって回復していきます。

 

麻痺を起こしていた痛みを感じる細い神経が回復する過程で、ジンジン、ビリビリした「しびれ」が再開し、強烈な「しびれ」に変化していきます。

 

その後、「しびれ」は徐々に和らぎ、運動神経も回復して足に力が戻ってきます。

 

最後に触覚が回復してジンジン、ビリビリ感も無くなり正常に戻ります。

 

この正座による「しびれ」は一時的なものですが、圧迫が長期間続くと循環障害を起こしている細胞が損傷します。

 

この損傷により炎症が起こると、痛みを引き起こす物質(発痛物質)が生じ、この発痛物質による痛みや「しびれ」の症状も加わってきます。

  

そして、治療を施し神経の圧迫が解放されると、損傷していた末梢神経の再生と修復が始まります。

 

修復される過程で、麻痺を起こしていた神経が回復し始め、ジンジン、ビリビリした「しびれ」や痛みが現れて症状が増悪する事もあります(瞑眩)。

 

「しびれ」や痛みは末梢神経が修復される過程で必要な場合もあります。

 

通常「しびれ」は、循環障害を起こしている場所や障害を受けた神経に沿って現れますが、筋肉・腱・靭帯・骨膜・内臓などからの関連痛による「しびれ」は、循環障害の無い場所にでも現れます。

 

しかし、この関連痛による痛みや「しびれ」が長く続くと、その部分の交感神経の緊張が持続し、血管が収縮し続けます。

その結果、症状が現れている場所の循環障害が起こり、新たな「しびれ」や痛みが起こる事もあります。

 

薬剤や化学物質による「しびれ」


歯医者さんなどで麻酔をした時に「しびれ」を感じた経験のある人も多いと思います。

 

薬剤や化学物質による中毒の場合は、神経が圧迫された時とは逆に、細い神経から先に影響を受けます。

 

痛みを感じる細い神経が麻痺して痛みは感じなくなりますが、太い触覚の神経は影響されないので触覚は残っています。

 

麻痺した細い神経が回復する過程や、薬剤の効き目が中途半端な時にも「しびれ」が現れるようです。

 

末梢性の「しびれ」と中枢性の「しびれ」


「しびれ」は神経系の障害によって起こります。

 

神経系には次の3つの神経が存在します。

 

①身体各部からの情報を集め中枢神経に伝える感覚神経。

②身体各部からの情報を処理し統合して指令を出す中枢神経。

③身体各部の筋肉(立毛筋、血管や内臓の筋肉も含む)や腺(内分泌腺や外分泌腺など)に中枢神経からの指令を伝える運動神経。

 

感覚神経と運動神経は末梢神経です。

 

*ここでは、自律神経も各臓器からの情報を集める感覚神経と腺や内臓や血管の筋肉に指令を伝える運動神経に含めています。

「しびれ」には発汗障害、鳥肌、充血、蒼白、チアノーゼなどの自律神経の反応を伴う事もあります。

 

中枢神経の障害で脳・脊髄の中にある感覚に関係する神経が障害されると、異常感覚や感覚鈍麻が現れ、運動に関係する神経が障害されると運動麻痺が現れます。

*末梢性の運動麻痺の場合は、筋肉の緊張が減弱、又は消失しますが(弛緩性麻痺)、中枢性の運動麻痺の場合は、筋肉の緊張が亢進します(痙性麻痺)。

 

末梢神経の障害で起こる「しびれ」の方が中枢神経の障害で起こる「しびれ」より高頻度で起こるようです。

 

末梢神経は電線の様に体全体に広く分布する為、障害を受ける機会が多いと考えられます。

 

器質性の障害による「しびれ」と機能性の障害による「しびれ」


器質性障害は「しびれ」の原因が画像などの検査に現れ、目で見て確認が出来る障害です。

 

機能性障害は「しびれ」の原因が画像などの検査に現れないもので、原因が特定出来ない障害です。

 

*カイロプラクティックや鍼治療は、体の機能(働き)を正常に戻し自然治癒力を高める治療なので機能性障害による「しびれ」の治療には最適です。

 

器質性障害の場合、中枢神経の障害では、中枢神経は殆ど再生をしない為に、一旦神経が障害されると修復は不可能です。

その為、出来るだけ早期に治療する事が重要です。

 

末梢神経の障害では、末梢神経には再生能力がある為、状況が悪くない限り修復される可能性があります。

 

中枢性の「しびれ」


脳の障害による「しびれ」

脳血管障害の場合は突然発症します。

 

安静時や暑い時期に起きるのは脳梗塞(血管が詰まる)が多く、活動中や寒い時期に多いのは脳出血(血管が破れる)です。

 

「しびれ」は障害を受けた脳の反対側の半身全体に現れます。

症状は一般的に体幹より手足に強く現れ、手と足では手に強く症状が現れる事が多いようです。

 

又、障害が脳の奥の脳幹部の中部から下部(橋中部から延髄)に起きた場合は、障害側の顔半分と反対側の体半分に「しびれ」が現れます。

 

一方、脳腫瘍の場合は徐々に発症し、腫瘍が大きくなるにつれて症状が進行して行きます。


その他、めまいやふらつき、頭痛、言葉が出ない、ろれつが回らない、意識がはっきりしない、ものが2重に見えるなど「しびれ」以外の症状に注意が必要です。

 

脳幹の上部の視床という所に出血や梗塞が起こると、片側の口の周りと、同側の手に「しびれ」が現れます。

 

これを手・口症候群と言います。

 

又、脳幹の梗塞では、めまいと口の周りに「しびれ」が現れる事もあるようです。

 

脊髄の障害による「しびれ」

脊髄空洞症

頚髄から上部胸髄の脊髄中心部に空洞が出来る疾患です。

 

両上肢の痛みと温度の感覚が障害され、触覚や深部感覚は正常に保たれます(解離性感覚障害)。

 

*深部感覚とは、手や足や体幹がどの位置にあるか(位置覚)、今どのように動いているか(運動覚)、どの位の抵抗感や重さ速さがあるかなどを感知する感覚です。

 

頚椎症性脊髄症
首の変形した骨や軟骨(椎間板ヘルニア)が真後ろへ突出すると、脊髄が圧迫されて障害される事があります。

 

手の「しびれ」だけでなく手指の運動も障害され、下肢にも「しびれ」や歩きにくいなどの症状が現れます。

又、尿が漏れる、又は出にくいなどの膀胱直腸症状も出てきます。

症状は首を伸展すると増悪します。

 

その他、脊髄からの「しびれ」が現れる疾患には脊髄腫瘍、脊髄の血管障害、脊髄炎、脊柱管狭窄症などがあります。

 

中枢性の「しびれ」の症状が現れた時は早急に病院を受診する必要があります。

  

末梢性の「しびれ」


末梢神経障害による「しびれ」の3つのタイプ

「多発ニューロパシー」

中毒や代謝性疾患などの全身性疾患で、全身の末梢神経が左右対称に障害されてきます。

 

全身の末梢神経が同時に障害を受けた場合、走行距離が長い末梢神経ほど先に障害を受けるという特徴があります。

 

人体では足の神経線維の走行が一番長い為、まず足が左右対称に靴下型に「しびれ」始めます。

症状が進行すると、次に神経線維の走行が長い、手の神経が障害され、左右対称に手袋型の「しびれ」が現れます。

 

*靴下型・手袋型の「しびれ」とは、靴下や手袋が手や足をおおっている部分の「しびれ」です。

 

更に進行すると、肘や膝の方へ「しびれ」の範囲が広がって行きます。

 

多発ニューロパシーの約4割位は原因が不明だと言われています。

 

原因として考えられるものには、ウイルス感染、糖尿病、肝障害、腎障害、膠原病、低栄養、妊娠、薬物、アルコール、有機溶剤、重金属などがあります。

 

代謝性疾患である糖尿病の場合、多発ニューロパシーの場合もありますが、
血管の障害の為に局所の血行障害も起こすので、多発単ニューロパシーや単ニューロパシーの場合もあります。

 

*頚髄の障害でも多発ニューロパシーと同様の症状が現れる事があるそうです。

 

「多発単ニューロパシー」

単独で末梢神経が障害されて、それが左右非対称性に多発した場合を言います。

 

糖尿病、血管炎、膠原病、感染症、悪性腫瘍などによって生じます。

 

*多発性に神経障害(単ニューロパシー)が現れる場合は全身性疾患を考慮する必要があります。

 

「単ニューロパシー」

一つの末梢神経の障害で起こり、その支配領域に症状が現れます。

 

局所の炎症、外傷、循環障害、圧迫(絞扼性神経障害)などにより起こります。

 

単ニューロパシーには、手根管症候群円回内筋症候群(親指から薬指の親指側半分までが「しびれ」麻痺する)、肘部管症候群とギヨン管症候群(小指と薬指の小指側半分が「しびれ」麻痺する)、回外筋症候群(手の指が伸ばせなくなる)、足根管症候群(足の裏のしびれや痛み、感覚鈍麻が現れる)、腓骨神経麻痺(下腿前外側から足背部のしびれや痛み、足首や足指の背屈障害)、ハンター管症候群(膝から下腿内側のしびれや痛み)、外側大腿皮神経痛(大腿外側のしびれや痛み)、四辺形間隙症候群(肩外側のしびれや痛み、腕が挙げずらい)、肩甲上神経障害(肩の運動に障害、特に挙上初期や肩の外旋運動障害)、筋皮神経障害(肘を曲げる力と前腕を回外させる力の低下、前腕外側のしびれや痛み)、肩甲背神経障害と長胸神経障害(肩甲骨の動きが不安定になり上肢の挙上運動が障害される)などがあります。