上殿皮神経と中殿皮神経障害による腰痛・殿部痛


上殿皮神経と中殿皮神経は、殿部(おしり)の感覚を支配する神経です。

この神経が障害されると殿部に痛みシビレが現れます。

 

痛みは、片側性の事も、両側性の事もあり、痛みの強さも鈍痛から電撃痛まで様々です。

 

症状は、立ち上がり動作、長く座る、長く歩く、体を反らしたり前に曲げる、体を捻るなど様々な動作により痛みが誘発される事が多いようです。

 

上殿皮神経と中殿皮神経障害

上殿皮神経は、第1~3腰神経後枝の外側枝で形成され、腰の下部で胸腰筋膜を貫通し、腸骨稜を越えて殿部外側の皮膚に分布する感覚神経です(図1)。

 

上殿皮神経障害は神経が胸腰筋膜を貫通する際に絞扼(絞め付ける)される事で起こります。

  

中殿皮神経は、第1~3仙骨神経後枝の外側枝で形成され、長後仙腸靭帯の下を通り、仙結節靭帯と大殿筋を貫いて殿部内側部に分布する感覚神経です(図1、2)。

  

長後仙腸靭帯 仙結節靭帯

*長後仙腸靭帯の下外側部は仙結節靭帯と一体となります。

この部を第2、3仙骨神経後枝の外側枝が貫通します(図1、2)。

 

中殿皮神経障害は、長後仙腸靭帯の下方通過部と仙結節靭帯と大殿筋貫通部で絞扼される事で起こります(図1)。

「診断」

MRIやレントゲン等の画像検査での診断は困難です。

 

・上殿皮神経障害

上殿皮神経の胸腰筋膜による絞扼部位(腸骨稜上で正中から7~8cm外側)を圧迫すると殿部外側に放散する痛みが引き起こされます。

 

・中殿皮神経障害

上後腸骨棘下部あたりの絞扼部位(正中から3~4cm外側)に圧迫すると殿部内側に放散する痛みが引き起こされます。

 

「胸腰筋膜」

胸腰筋膜 関連する筋肉

胸腰筋膜(後層と中間層、図3)には、腹横筋中部、内腹斜筋上部(図3、4)、大殿筋、広背筋(胸腰筋膜後層の浅層は広背筋腱膜から形成され大殿筋と連結します。図1,4)、脊柱起立筋(最長筋と腸肋筋)、多裂筋、大腿二頭筋等の多数の筋肉が連結しています。

 

又、胸腰筋膜のほんの少しの線維(後層の浅層)は外腹斜筋と僧帽筋に連結しています。

胸腰筋膜 腹横筋 内腹斜筋

胸腰筋膜に包まれた脊柱起立筋(最長筋と腸肋筋)と多裂筋が収縮する事でも胸腰筋膜が拡張し、この筋膜の緊張を高めます。

 

体幹から下肢や上肢への荷重伝達には大殿筋や広背筋等を通して胸腰筋膜が使われ、この時の体幹の安定性は、腹横筋、腹斜筋、起立筋、多裂筋等の緊張により胸腰筋膜を通して保たれます。

 

胸腰筋膜 大腿二頭筋 仙結節靭帯 脊柱起立筋 多裂筋

上肢や下肢の運動も胸腰筋膜の緊張を高めます。

 

胸腰筋膜、大腿二頭筋、大殿筋は仙結節靭帯に付着し(図1、5)、長後仙腸靭帯にも胸腰筋膜、脊柱起立筋腱膜、多裂筋が付着しています。

 

胸腰筋膜は仙腸関節を被い仙腸関節の安定性に貢献し、長後仙腸靭帯や仙結節靭帯等も仙腸関節を安定させる靭帯です。

 

これらの胸腰筋膜に関連する筋肉の緊張や仙腸関節の異常は、胸腰筋膜の緊張を高め、上殿皮神経と中殿皮神経の絞扼の原因になると考えられます。

 

*仙腸関節の異常による関連痛は、傷めた仙腸関節の外側(中殿皮神経の絞扼部のあたり)に現れる事が多く、その他、太ももの外側や後ろ側、鼠径部(そけいぶ)、ふくらはぎ、足背などに現れる事もあります(関連痛について、図4・B参照)。

  

「治療」

上殿皮神経と中殿皮神経の絞扼の原因には腹横筋、内腹斜筋、大殿筋、広背筋、脊柱起立筋、多裂筋、大腿二頭筋等の多くの筋肉が関係しています。

 

背骨と骨盤(仙腸関節)のズレはこれらの筋肉の異常を引き起こします。

 

背骨骨盤全体の調整を行い、この異常を矯正します。

 

腰椎や仙腸関節の状態が良くなると、上殿皮神経を形成する第1~3腰神経や中殿皮神経の第1~3仙骨神経の状態も良くなります。

 

鍼による全体の経絡の調節もこれらの筋肉の緊張を和らげます。

 

局所的には、これらの筋と関連する筋肉拮抗する筋肉と共同して働く筋肉に鍼や徒手により直接治療を行います。

 

また、殿部に関連痛を起こす筋肉(トリガーポイントによる腰部・殿部・下肢の痛み体幹の痛み参照)の状態も確認し異常があれば治療が必要です。

 

又、これらの筋のストレッチを行うのも有効です。