梨状筋(りじょうきん)症候群


「梨状筋症候群とは」

梨状筋症候群 梨状筋ん上孔・下孔

梨状筋は、お尻の深い所にある筋肉で、仙骨の前面から大腿骨の大転子の上縁に走り、股関節を外旋(つま先を外に回す)させる筋肉です(図1)。

梨状筋症候群は、この筋肉が何らかの原因で緊張し堅くなり、その下の梨状筋下孔を通る坐骨神経を圧迫し、殿部から下肢に痛みシビレを生じる疾患です。

 

男性より女性に多く、腰部椎間板ヘルニア腰部脊柱管狭窄症と間違えられて治療されている事が多いのが特徴です。 

 

「原因」


長時間の運転や座り仕事、片方の足に持続的に体重を乗せる、ランニングや山登りなどで発症する事がありますが、原因が明らかでない事の方が多いようです。

「坐骨神経の経路と梨状筋との関係」

坐骨神経の経路と梨状筋との関係

坐骨神経は2つの成分(総腓骨神経と脛骨神経)で構成されています。

 

普通(約85%)は、この2つの神経は梨状筋下孔を通って骨盤の外へ出ています(図2①)。

 

異常例では、②のように総腓骨神経が梨状筋の中を貫通し、脛骨神経が梨状筋下孔を通過するタイプ(10%強)。

 

 ③のように総腓骨神経は梨状筋上孔を、脛骨神経は梨状筋下孔を通るタイプ(2~3%)。

 

④のように2つの神経が共に梨状筋を貫通するタイプ(1%弱)が報告されています。

 

この異常な経路を通る神経が梨状筋を貫通する際に、この筋肉により圧迫され梨状筋症候群を生じる事があると言われています。

 

しかし、梨状筋を貫通する坐骨神経が梨状筋により圧迫を受けるかどうかは明らかではないようです。

 

「症状」


梨状筋症候群では、殿部、大腿後部、下腿部、足部などに痛みやシビレを訴えます。

その他にも、以下の要因により、腰部や鼠径部、会陰部などの広範囲の痛みや感覚障害、筋力低下、排便排尿障害、性機能障害など、多彩な症状が現れる事があります。

 

「梨状筋の異常による症状」

梨状筋からの関連痛が殿部から大腿後部などに現れ、梨状筋に関連する筋肉(外旋筋などの協力筋や内旋筋などの拮抗筋)からの関連痛も大腿外側から下腿外側部や腰部、鼠径部などに現れる事もあります(TPによる腰部・殿部・下肢の痛み、図6参照)。

 

「仙腸関節の異常による症状」

梨状筋の緊張は、仙骨を引っ張り仙腸関節のズレを引き起こします。

仙腸関節の異常は、殿部から大腿の外側や後部、鼠径部(そけいぶ)、ふくらはぎ、足背などに痛みやシビレを生じます(関連痛について、図4B参照)。

 

梨状筋は仙腸関節の安定に貢献しています。

その為、仙腸関節に異常が起こると、梨状筋も異常緊張を起こします(図1)。

 

「梨状筋上孔と下孔での神経・血管の圧迫」

梨状筋とその周囲の筋肉の緊張により梨状筋下孔部と梨状筋上孔部で神経と血管が圧迫される事があります。

血管は図3には示していませんが、血管は神経と一緒に走行しています。

 

神経と血管が梨状筋下孔と梨状筋上孔の骨盤の出口で圧迫される為、梨状筋症候群は骨盤出口症候群とも呼ばれています。

 

坐骨神経の圧迫では、下腿後部から外側部や足底、足背に痛みや感覚障害を起こし、足首や足指の屈曲力や伸展力、膝関節の屈曲力の低下が起こります。

梨状筋症候群による 骨盤部の神経の絞扼

上殿神経の圧迫では股関節の外転力(足を外に挙げる力)が低下します。

 

下殿神経と外旋筋群への神経の圧迫では股関節の伸展力(足を後ろに挙げる力)と外旋力(つま先を外に回す力)が低下します。

 

後大腿皮神経の圧迫では大腿後部、殿部下部(下殿皮神経)、会陰部に痛みやシビレが現れます。

 

陰部神経の圧迫では会陰部の痛みやシビレ、排便排尿障害、性機能障害などが現れます。

 

*筋肉を動かす神経の圧迫が長期に及ぶと筋肉の萎縮(やせる)も起こります。

 

「検査」


梨状筋症候群では、梨状筋部の触診により、圧迫すると痛みが放散する硬結(しこり)が確認されます。

又、他動的に梨状筋を伸長したり、抵抗を加えて梨状筋を収縮させた時に痛みやシビレが誘発されます。

「梨状筋症候群の誘発テスト」

梨状筋症候群 ペイステスト

 

「ペイステスト」

椅子に座り、股関節を90度屈曲させた状態で両膝を外に開かせ(外転)、その力に抵抗を加える。

 

痛みやシビレの増悪や筋力低下があれば陽性。

梨状筋症候群 フライバーグテスト

「フライバーグテスト」

仰向けで股関節と膝関節を屈曲させて、膝の外側と足首の内側に力を加え、股関節を内旋、内転させる。

 

*梨状筋は股関節の屈曲角度が60度より少ない時は股関節を外転、外旋させます(これと反対の動作をさせると梨状筋は伸長されます)。

 

               痛みやシビレの増悪があれば陽性。

梨状筋症候群 伏臥位内旋テスト ヒブテスト

 

 

「伏臥位内旋テスト(ヒブテスト)」

うつ伏せで膝関節を90度屈曲させ、足首を持って他動的に内旋(外側に押す)させる。

 

痛みやシビレの憎悪があれば陽性。

梨状筋症候群 仰臥位内転テスト

「仰臥位内転テスト」

仰向けで股関節を60度~90度屈曲させて膝を外側から内側に他動的に押して股関節を内転させる。

 

*股関節60度~90度屈曲位では梨状筋は外転筋として働きます。

 

               痛みやシビレが増悪すれば陽性。

 

梨状筋症候群 仰臥位外旋テスト

「仰臥位外旋テスト」

仰向けで股関節を90度より深く屈曲させて股関節を外旋させる(あぐらのような状態)。

 

*股関節を90度より深く屈曲させた時、梨状筋は内旋筋として働きます。

 

痛みやシビレが増悪すれば陽性。

 

「下肢伸展挙上テスト(SLR)]

仰向けで患側の下肢を伸ばしたまま他動的に挙上させる。

坐骨神経の圧迫があれば下肢に痛みやシビレが走り、可動性も低下します。

 

その他、梨状筋症候群では、仰向けに寝た時に、梨状筋の緊張している側の足先が外を向いていたり、足の長さが見かけ上、短くなっている事もあります。

 

梨状筋症候群は、MRIやレントゲンなどの画像検査では診断できません。

 

「治療」


まずは、骨盤、腰椎、胸椎、頚椎をチェックして全体のバランスを取るように矯正します。

 

全体のバランスが取れる事により、骨盤(仙腸関節)の状態が改善し、梨状筋への物理的ストレスが取り除かれ、神経の流れも改善します。

 

*仙腸関節を支配する神経は、(腰椎の4番)、5番、仙骨の1番、2番で、梨状筋への神経支配は(腰椎の5番)、仙骨の1番、2番です。仙腸関節と梨状筋の神経支配は共通しており、お互いに影響を及ぼします。

 

体全体の経絡の調整によっても梨状筋の緊張が緩みます。

 

局所的な治療としては、股関節の矯正を行い、梨状筋や、その協力筋(図3に示す筋肉、大腿二頭筋長頭、腸腰筋など)や拮抗筋(半腱・半膜様筋、大腿筋膜張筋など)の反応点(トリガーポイントによる腰部・殿部・下肢の痛み大腿・膝・下腿の痛み参照)への鍼治療や徒手による治療を行います。

 

梨状筋へのストレッチとして、上記②~⑤の誘発テストを心地よい程度に行うのも効果的です。