頚椎椎間板ヘルニアは、椎間板への長期の過負荷(不良姿勢や外傷の後遺症による背骨のズレなど)や外傷により線維輪が破れて髄核が飛び出た状態です。
椎間板ヘルニアが画像診断で証明されても無症状な事も多いようです。
椎間板ヘルニアが後外方へ出た場合は神経根(脊髄から出た末梢神経)を圧迫し(図1上部)、後方へ出た場合は脊髄を圧迫します(図1中部)。
又、図1下部のように神経根と脊髄の両方が圧迫される事もあります。
腰椎部では椎間板ヘルニアが後外側に起こり易い構造をしていますが、頚椎部では鈎状突起が存在し、椎間板ヘルニアは後外側には起こりにくい構造となっています。
その為、ヘルニアは中央部よりに起こり易く、脊髄が圧迫されて重篤になる傾向があるようです。
椎間板ヘルニアの好発部位はC5-C6間、
次いでC6-C7間、C4-C5間、C3-C4間、C7-T1間の順に多いと言われていて、可動域の大きい中・下部頚椎に好発します(Cは頸椎、Tは胸椎を表します)。
*頚椎にのみ存在する鈎状突起は、頚椎部の肋骨原基が頚椎に癒合したものと考えられます(図上部参照)。
椎間板は外傷(線維輪の断裂や椎間板ヘルニア)による後遺症や長期の過負荷(背骨のズレ)により障害されて薄くなります(椎間板変性)。
椎間板変性により上下の骨と骨との間が狭くなり、頚椎(鈎状突起や椎間関節など)に過度の圧縮力が加わります。
その刺激により骨が増殖して変形した状態が頚椎症です(図2参照)。
また、靭帯などの関節周囲の組織も肥厚します。
頚椎症には、神経根が圧迫される頚椎症性神経根症と脊髄が圧迫される頚椎症性脊髄症があります。
又、神経根症と脊髄症の両方が混在する場合もあります。
頚椎症があっても、はっきりした症状が現れない人も多く、60歳以上のほとんどの人はレントゲンにより頚椎の椎間板変性や骨棘形成(頚椎症)の所見が見られるようです(無症状の人でも約80%)。
レントゲン検査の所見と症状の有無に関する相関関係は、あまり強くないようです。
頚椎椎間板ヘルニアの場合は、損傷した椎間板やその周囲の筋肉や靭帯などに関連した痛みやしびれが頚部から肩甲骨部、肩や上肢に現れます。
頚椎症では、損傷した椎間板やその周囲の筋肉や靭帯などに関連した痛みやしびれと、鈎状突起(ルシュカ関節)や関節突起(椎間関節)からの痛みやしびれが頚部から肩甲骨部、肩や上肢に現れます。
又、鈎状突起の側方の骨棘(骨のトゲ)により椎骨動脈の周りの交感神経(血管を収縮させる神経)が、首を動かした時に刺激されて、めまい、頭痛、耳鳴り、視覚障害(物が2重に見えるなど)を訴える事もあるようです(頚椎症の図参照)。
この他に、脊髄の圧迫や神経根の圧迫が起こると、これらの症状に下記の症状が加わります。
頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症で脊髄が圧迫されると、書字や箸を使うなどの手先を使う動作が不自由になります。
又、上肢だけでなく下肢にも症状が現れ、歩きづらくなったり(痙性麻痺)、排尿や排便の障害(尿が出にくい、又は漏れるなど)も現れてきます。
頚椎を伸展(上を向く)すると症状が増悪します。
この場合は早急に専門の医療機関を受診する必要があります。
神経根に圧迫がある時は、頚椎の障害側への運動が制限され、障害側の腕を外側に挙上すると痛みは軽減するようです(神経が短縮し緩む為)。
又、頚部を後屈し障害側へ側屈・回旋すると症状が増悪します。
神経根が圧迫を受けた時は、運動神経線維より知覚神経線維の方が先に障害されます。
その為、最初は運動麻痺より片側の上肢のしびれや痛みを訴える患者さんが多くなります。
C4-C5間の椎間板ヘルニアではC5神経根
C5-C6間の椎間板ヘルニアではC6神経根
C6-C7間の椎間板ヘルニアではC7神経根
C7-T1間の椎間板ヘルニアではC8神経根
T1-T2間の椎間ヘルニアではT1神経根が圧迫されて障害されます(図3参照)。
「C5神経根障害」
上肢を横に挙げる力が弱くなります。
三角筋が障害される為です。
肩から上腕外側のしびれ(感覚障害)や痛みが現れます。
上腕二頭筋腱反射の低下も現れます。
「C6神経根障害」
肘を曲げる力が弱くなります。
上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋が障害される為です。
手首を伸ばす力も弱くなります。
手根伸筋が障害される為です。
前腕外側から親指と人さし指にしびれ(感覚障害)や痛みが現れます。
腕橈骨筋腱反射の低下も現れます。
「C7神経根障害」
肘を伸ばす力が弱くなります。
上腕三頭筋が障害される為です。
手首を曲げる力も弱くなります。
手根屈筋が障害される為です。
指を伸ばす力も弱くなります。
総指伸筋が障害される為です。
中指にしびれ(感覚障害)や痛みが現れます。
上腕三頭筋腱反射の低下も現れます。
「C8神経根障害」
握力が低下します。
浅指屈筋と深指屈筋が障害される為です。
前腕内側から小指と薬指にしびれ(感覚障害)や痛みが現れます。
「T1神経根障害」
指を外に開いたり、閉じたりする力が低下します。
虫様筋、背側骨間筋、掌側骨間筋が障害される為です。
肘の内側にしびれ(感覚障害)や痛みが現れます。
肩や腕に疼痛をもたらす筋膜トリガーポイント、靭帯、骨膜、内臓からの連関痛、絞扼性神経障害(末梢神経が筋肉、靭帯、骨などにより圧迫されて障害される) からの症状(胸郭出口症候群、手根管症候群、ギョン管症候群など)と区別する必要があります。
又、血管の病変、腫瘍、中毒なども考慮する必要があります。
まずは、骨盤、腰椎、胸椎をチェックして全体のバランスを取るように矯正する必要があります。
頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症は頸椎中・下部に多く、この部位は可動性が大きく不安定になり易い部分です。
この部位の上の頸椎と下の頸椎や胸椎はズレた位置で固定(フィクセィション)され易い部分です。
上下の頸椎が固定されると中・下部頚椎がその動きを補い椎間板の負担が増加します。これにより椎間板ヘルニアや椎間板変性が起こると考えられます。
この不安定性により椎間板が障害されると炎症が起こり、障害された椎間板の周りの筋肉の反射的な収縮により頚椎がズレた位置で固定されます。
この固定により椎間板の中の循環が悪くなり、段々と椎間板は薄くなっていき(変性)頚椎症に移行していきます。
頚椎の不安定性で頚椎椎間板ヘルニアを起こしている場合は、まず、下部頸椎から上部胸椎と上部頸椎のズレと固定を触診により確認して矯正する必要があります。
その後、頚椎椎間板ヘルニアを起こしている頚椎も触診してズレと固定があれば優しく矯正をします。
頚椎症では頚椎全体の動きが制限されている為、頚椎全体を触診して頚椎全体がバランスよく動くように矯正していきます。
頚部のズレと動きが改善されると、神経の血液と脳脊髄液の循環が改善され神経の機能が回復し症状が改善されます。
頚椎部のズレや固定は骨盤や腰椎、胸椎のズレによる傾きを補正する為に起こります(逆に頚椎のズレと固定の為に骨盤、腰椎、胸椎が補正してズレる事もあります)。
又、しびれや痛みが出ている部分に関連のある経絡の反応点や頚部の反応点への鍼治療も有効です。
当然、体全体の経絡の流れも考慮して調節する必要があります。
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