浅腓骨神経麻痺と深腓骨神経麻痺


「腓骨(ひこつ)神経障害」

腓骨神経が障害されると、足関節と足指の背屈が障害されて下垂足(爪先を上げられない)となります。

障害が軽度の場合は、つまづき易くなったり、サンダルやスリッパが脱げやすくなったりします。

又、下腿外側から足背に知覚障害(シビレや痛み)が生じますが、これらの症状の現れ方は、障害を受ける場所によって異なります。

 

腓骨神経障害は下肢の神経障害の内で最も高率に発生します。

 

腓骨神経は大腿の後下部で坐骨神経から分岐します。

 

腓骨神経障害の発生部位は坐骨神経の障害による症状として発症する場合を除いては、腓骨頭部や腓骨頚部で生じる事が多く、その他、足首や足背部でも生じる事があります(図1参照)。

 

又、下肢での神経の絞扼(締め付けられる)による障害は、上肢で起こるものより頻度が低く、下肢の神経障害は、絞扼で起こるものよりも打撲や圧迫等の外力による損傷が多いようです。

 

「総腓骨神経麻痺」

腓骨神経 絞扼部位

総腓骨神経は腓腹(ひふく)筋外側頭部から腓骨頭後部を走行する部位(図1参照)で圧迫・牽引(引っ張られる)・摩擦(こすれる)によって障害される事があります(この部を圧迫した状態での長時間の臥床や足を組んだ状態の持続、又は打撲や足関節の内反(図4参照)捻挫による牽引、下肢の過度の運動などによる)。

 

*腓腹筋外側頭部内に小さい骨(種子骨又はファベラ)が存在したり(約15~25%の確率で存在)、腓腹筋外側頭部の過緊張が強いと神経が障害され易い。

 

総腓骨神経は腓骨頭後部を回った後に、ヒラメ筋と長腓骨筋との間の筋膜貫通部、長腓骨筋貫通部、長腓骨筋と腓骨頚部の間(図1参照)で、これらの筋の過緊張により絞扼(締め付けられる)されて障害される事が有ります。

 

その他、ガングリオン等のできもの、骨の変形等によっても障害される事があります。

 

総腓骨神経は長腓骨筋を貫通した後、長腓骨筋と腓骨間で、浅腓骨神経と深腓骨神経に分かれます(図1参照)。

 

「浅腓骨神経麻痺」

浅腓骨神経は、深腓骨神経と別れ、腓骨の外側を下行しながら下腿外側の筋肉(長腓骨筋、短腓骨筋)に筋枝を与えた後、下腿の下から1/3部で筋膜を貫き皮下に出ます(図1参照)。

 

浅腓骨神経はこの筋膜貫通部で絞扼され神経障害を起こす事があります。

 

皮下に出た後、浅腓骨神経は表層を走行する為、打撲、靴や正座による圧迫、足関節の内反捻挫(図4参照)による牽引などにより障害を受け易くなります。

 

その他、ガングリオン等のできもの、骨の変形、足関節の過度の運動等によっても障害される事があります。

 

「深腓骨神経麻痺」

深腓骨神経は浅腓骨神経と別れた後、長趾伸筋を貫いて長趾伸筋と腓骨の間を通過します(図1参照)。

この部で、長趾伸筋の過緊張により深腓骨神経が絞扼される事があります。

前足根管症候群

深腓骨神経は下腿で足関節と足指を背屈させる筋肉(前脛骨筋、長指伸筋、長母指伸筋、第3腓骨筋)に筋枝を与えながら下行した後、伸筋支帯の下を長母指伸筋に覆われながら通過して足背で足指を曲げる筋肉(短母指伸筋、短指伸筋)に筋枝(外側枝)を与えます。

その後、母指と第2指間に皮枝(感覚神経)を出します(図2参照)。

 

長母指伸筋と下伸筋支帯と足根骨で出来た空間を前足根管と呼び、この部でも深腓骨神経が絞扼される事があります(前足根管症候群、図2参照)。

 

又、下伸筋支帯の遠位にある短母指伸筋(図2参照)や母指と第2指の間の近位部の筋膜貫通部(図1参照)でも深腓骨神経が絞扼される事があります。

 

その他、打撲、靴や正座による圧迫、内反捻挫による牽引、ガングリオン等のできもの、骨の変形、足関節の過度の運動等によっても障害されます。

 

「腓骨神経麻痺の症状と診断」


「総腓骨神経麻痺」

総腓骨神経が障害されると浅腓骨神経麻痺と深腓骨神経麻痺両方の症状が現れます。

運動麻痺では、深腓骨神経の運動麻痺が顕著に現れ、足関節と足指の背屈力が低下し、足が内反・底屈し易くなります(図4参照)。

重度の場合は足関節および足指の背屈が不能となり下垂足(足先が垂れ下がる)となります。

その為、歩行時には膝を高く上げ、足先を投げ出して歩くようになります(鶏歩)。

 

又、浅腓骨神経が支配する長・短腓骨筋も麻痺する為、足の外反力(足の小指側を持ち上げ、親指側を下に下げる)をテストすれば筋力の低下が明らかになります。

 

坐骨神経損傷による腓骨神経麻痺を除いては、知覚障害は、図3の浅腓骨神経と深腓骨神経の部分に現れます。

 

*坐骨神経損傷による腓骨神経麻痺では、膝の裏で総腓骨神経から分岐する外側腓腹皮神経も障害され、下腿外側全体に知覚障害が現れます(図3参照)。

 

浅・深腓骨神経知覚領域

「浅腓骨神経麻痺」

浅腓骨神経は、下腿で筋肉(長・短腓骨筋)に筋枝を分岐した後、筋膜を貫通して皮下に出て足背部から足指まで走行します(図1参照)。

 

浅腓骨神経の障害部位は筋膜貫通部と足背部が殆どです。

 

その為、浅腓骨神経単独の麻痺では知覚障害のみ現れ運動障害は現れない事が殆どです。

 

もし、外反障害(長・短腓骨筋の麻痺)があれば浅腓骨神経近位の障害です。

 

足背部での障害では、浅腓骨神経は足背より近位で内・中間足背指神経に分かれる為、どの神経が損傷されたかにより、知覚障害部位が異なります(図1参照)。

 

「深腓骨神経麻痺」

長指伸筋上部での絞扼:足関節および足指の背屈筋力の低下や下垂足を生じます。

 知覚障害は母指と第2指の対抗する部(図3)にシビレや疼痛を生じます。

 

前足根管症候群:足根管の遠位部で深腓骨神経から筋枝(外側枝)を受ける短母指伸筋と短指伸筋が麻痺し、足指の伸展力が低下します。

しかし、足関節の背屈力は障害されません。

シビレや痛みは図3のの部分に現れます。

 

*短母指・短指伸筋に麻痺がある場合、足関節を最大背屈位に固定して、足指を背屈させると、足指の背屈筋力が低下するか背屈不能となります。

 

短指伸筋や母指と第2指間近位での絞扼では、母指と第2指間の知覚障害(図3のみ現れ、筋肉は障害されない為、筋力低下や筋委縮は起こりません。

 

足関節の底屈・内反

「腓骨神経伸展テスト」

股関節を最大に屈曲させ、膝関節を伸展し、足関節を底屈・内反させると障害された神経に沿って疼痛やシビレが生じます。

 

このテストでは、総腓骨神経、浅腓骨神経、深腓骨神経全てが伸展されます。

 

足関節の底屈・内反のみによっても疼痛とシビレが誘発される事があります。

 

「ティネル徴候」

神経傷害部と思われる部位を叩いて、その支配領域に疼痛が放散すれば障害部位が確定出来ます。

 

腰部椎間板ヘルニア(L5の神経根障害、図3参照)、坐骨神経障害、筋肉からの関連痛との鑑別診断が必要です。

 

骨折や骨の変形が神経圧迫の原因と考えられる時はレントゲン検査が、ガングリオン(できもの)等が疑われる場合にはMRIや超音波検査が必要です。
必要に応じて筋電図検査も行われます。

 

「腓骨神経障害の治療」


圧迫等の外力が原因の場合はその外力を取り除きます。

 

その後、骨盤、腰椎、胸椎、頚椎をチェックして全体のバランスを取るように矯正します。
鍼による全体の経絡の調節も行います。

 

特に、骨盤の異常は、膝や足首の関節の配列に異常を引き起こし、腓骨神経の絞扼の原因となる事もあります。

 

又、腰椎や骨盤に異常が有ると、足の神経や筋肉に炎症や緊張が起こり易くなります。

*腓骨神経は、第4~5腰神経、第1,2腰神経によって構成されています。

 

「局所的な治療」

総腓骨神経麻痺:腓骨と脛骨の関節(上・下脛腓関節)、膝関節の矯正、腓腹筋外側頭、ヒラメ筋、長腓骨筋とれらに関連する筋肉(拮抗する筋肉と共同して働く筋肉)の反応点への鍼治療や徒手による治療を行います。

 

浅腓骨神経麻痺:上・下脛腓関節、足関節、足根骨の矯正、長・短腓骨筋とれらに関連する筋肉(拮抗する筋肉と共同して働く筋肉)の反応点への鍼治療や徒手による治療を行います。

 

深腓骨神経麻痺:上・下脛腓関節、足関節、足根骨の矯正、長指伸筋、長母指伸筋、短指伸筋とれらに関連する筋肉(拮抗する筋肉と共同して働く筋肉)の反応点への鍼治療や徒手による治療を行います。

 

伸筋支帯や下腿筋膜は、下腿部の筋肉を包む筋膜で作られている為、下腿部の筋肉の緊張が緩むと症状の改善につながると考えられます。