手根管症候群


「手根管症候群とは」

手根管症候群は絞扼性(こうやくせい)神経障害の中で最も多い疾患です。

 

*絞扼性神経障害とは、背骨を出て、手足などの末梢に伸びる神経が、骨や靭帯、筋肉(筋膜)で作られた隙間を通る時に締め付けられて起こる神経の障害です。

  

妊娠出産期と更年期に発症するケースが多く、圧倒的に中年女性に多く発症します。

 

この疾患は、両側に発症する事も多く、手の平の付け根の手根管と呼ばれる部分で神経(正中神経)が圧迫されて手指にしびれや痛みを訴えます。 

 

「手根管とは」

手根管

手根管は手の平の付け根の骨(手根骨横手根靱帯(屈筋支帯)に囲まれたトンネルです(図1)。

 

この中を指を動かす筋肉の腱が9本と神経(正中神経)が1本通っています。

 

このトンネルの中の圧力が上がると、神経(正中神経)が圧迫され発症します。

 

手根管の位置は手首の遠位にあるシワから3~4㎝末梢までの範囲にあります。

 

「症状」

手根管症候群の感覚異常領域

親指、人さし指、中指、薬指の中指側にシビレや痛みを伴うビリビリした感覚が現れます(図2)。

 

特に、人差し指と中指にシビレが現れ、親指にシビレが現れることは少く、一般的には、なんとなく感覚が鈍く、シビレるといった軽度のものが多いようです。

 

*手の平の橈側(親指側)への知覚神経(手掌枝)は手根管の手前で分岐するので(図2)、手根管症候群では手の平の橈側には知覚障害は現れません(手根管より近位の正中神経障害では手の平の橈側にも知覚障害が現れます)。

 

この疾患の特徴は、症状の夜間増悪です。

真夜中から明け方にかけて手指のシビレや痛みが強くなります。

その際、手を強く振ったり、お湯で温めたりすると痛みが軽減します。

 

症状がひどくなると、指の感覚が鈍くなり、親指の付け根の筋肉がやせてきて(図3・4)物をつかむなどの細かい動作が困難になります(ボタンが留めにくい等)。

又、握力の低下により、ペットボトルのフタを開けられない、タオルを固く絞れない等の症状も現れます。

 

母指対立運動 猿手

「母指の対立運動障害」

親指と他の指の指先を向かい合わせにする動作が難しくなります(図3左)。

 

「猿手変形」

母指球筋の麻痺と萎縮の為、親指は外旋かつ内転して、母指球部が猿の手のように平らになります(図3右)。

 

 

 

OKサイン 手根管症候群

 

「OKサイン」

母指の対立運動の障害の為、親指と人さし指できれいな丸が作れなくなります(図4)。

 

 

 

 

 

 

ボトル徴候 手根管症候群

 

「ボトル徴候」

母指の外転運動障害の為、湯呑やジョッキ等の円筒状の物が持ち難くなり、完全に握れない(図5)。

 

 

 

 

「原因」

手根管症候群は、原因が明らかでないものが多い疾患です。

 

・妊娠、出産、更年期など、女性ホルモンの乱れによる手根管内の腱や腱鞘の腫れ(腱鞘炎)や手根管内のむくみ

・手の使い過ぎによる腱鞘炎

・関節リウマチ、変形性関節症、骨折や脱臼による骨の変形

・腫瘍や腫瘤(ガングリオンなどのできもの)

・糖尿病、頚椎症、甲状腺疾患などにより神経自体が損傷され易い

・長期の人工透析によるアミロイド(異常なたんぱく質)の手根管内への蓄積などの様々な原因で発症します。

 

「検査」


「ティネル徴候」

ティネル徴候

ティネル徴候陽性

手の平の付け根付近(手根管の入り口部)をハンマーで叩くと、正中神経に沿って小指以外の指にシビレや痛みが響きます(図6)。

 

ハンマーでなくても指先で叩いても検査できます。

 

正中神経圧迫試験

手根管入口部を持続圧迫すると症状が増強します。

 

「ファレンテストと逆ファレンテスト」

ファレンテストと逆ファレンテスト

ファレンテスト陽性

両手首を直角に曲げて手の甲を合わせて保持し、1分間以内にシビレ、痛みが悪化すれば陽性です(図7)。

 

逆ファレンテスト陽性

両手首を直角に背屈して保持し、1分以内にシビレ、痛みが悪化すれば陽性です(図8)。

 

*手根管内の圧力は手首の屈曲時と伸展時に高まり、手首の屈曲時より伸展時の方が3倍も内圧が大きくなると言われています。

手首を正中位(真っ直ぐ)に固定すると症状が軽減する事が多いようです。

 

通常、レントゲン写真で異常は認められないが,手首の骨の変形が神経圧迫の原因と考えられる時はレントゲン検査が必要です。
手根管内の腫瘍(できもの)などが疑われる場合にはMRI検査が必要です。
筋電図検査で神経伝導速度の低下が確認されると診断が確定します。

 

手根管症候群は、手にシビレを起こす頚椎疾患、胸郭出口症候群、円回内筋症候群、筋肉からの関連痛などとの鑑別が必要ですが、これらの疾患が合併する事もあります。

 

「治療」

まずは、骨盤、腰椎、胸椎、頚椎をチェックして全体のバランスを取るように矯正します。

 

手根管の中を通る腱(浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋の腱)への神経支配は頚椎7番、8番、胸椎1番です。

 

頚椎に異常があると、二次的に絞扼性神経障害(手根管症候群など)を引き起こし易くなります。

矯正により、背骨と骨盤のバランスが良くなると、頚椎の状態も良くなり、手根管症候群に関連する神経や筋肉の状態も良くなります。

 

体全体の経絡の調整によって全体のバランスを整える事も効果的です。

 

局所的治療としては、手首の関節や8個の手根骨(図2)の矯正や、母指球や小指球の筋肉、手根管の中を通る筋肉、それに関連する筋肉(拮抗する筋肉と共同して働く筋肉)の反応点(トリガーポイント)への鍼治療や徒手による治療も有効です。

 

*前腕と手根部の筋肉の緊張を緩める事は、横手根靭帯の緊張を緩める事にもつながり有効です。