五十肩と背骨・骨盤


「五十肩(凍結肩)」

50歳代を中心とした中高年者に明らかな外傷がなく生じる疾患です。

 

男性より女性に多いと言われています。

 

自動運動(自分で動かす)、他動運動(人に動かしてもらう)の制限と肩の痛みを主な訴えとする疾患で、肩関節周囲炎とも呼ばれます。

 

具体的には急に腕が上がらなくなり、髪をとかしたり、服の着脱が困難になるなどの症状を訴えます。

 

50肩の原因は不明で、癒着性肩関節包炎と呼ばれる事もありますが必ず癒着が見られるわけではありません。

 

50肩は通常、片側に発症し反対側へは約10%発症すると言われています。

 

石灰性腱炎、変形性関節症、腱板断裂、上腕二頭筋腱炎などの病態が明らかな疾患は50肩から除かれます。
又、頸椎の疾患や内臓からの関連痛、腫瘍性疾患などと鑑別する必要があります。

 

50肩の症状は急性期、慢性期、回復期の3期に分けられます。

 

 急性期は炎症が強い時期で、筋肉も炎症の為に反射性に強く収縮しています。

 

安静にしていても痛む。夜、痛くて眠れない、寝返りが出来ない、肩を動かせない、動かすと痛みが残るなどの症状を訴えます。

 

この時期は無理に動かす事は避けて、痛む動作はしない様にしましょう。

 

慢性期になると痛みが和らぎ、夜も眠れるようになります。

動かした時の痛みは軽減しますが、肩関節は固まり可動制限が残ります。

 

この時期は、ひどく痛んだり、痛みが後に残らない程度に動かしていく事が大切です。

 

回復期には、かなり痛みが少なくなり、動かした時の痛みもあまり感じなくなります。

そして可動域も徐々に広がってきます。

 

この時期は、積極的に動かして可動性を回復させる必要があります。

 

50肩は早い人で3カ月~半年で治癒し、1年~1年半で約90%は自然治癒すると言われていますが、個人差も大きく、回復期を過ぎても痛みや可動制限などの後遺症が残る人も多いようです。

 

早く痛みと可動制限を改善し、後遺症を残さない為に治療が必要です。

 


「肩関節複合体」

肩関節複合体は、肩関節(肩甲上腕関節)、肩鎖関節、胸鎖関節、肩甲胸郭関節で構成されています。

 

「肩関節(肩甲上腕関節)」

肩関節は、肩甲骨の浅く小さい受け皿と上腕骨の上端の丸い部分(上腕骨頭)とで作られる不安定な関節ですが、人体の中で最大の可動域を持つ関節です(図1参照)。

 

上腕骨は肩甲骨に筋肉や靭帯などでぶら下げられていて骨による支持がありません。

肩関節複合体

その為、筋肉や靭帯などの関節の周りの組織には常に負担が強いられています。

 

*上腕骨頭と肩甲骨の外側の出っ張り(肩峰)の間を第2肩関節と呼ぶ事もあります(図1参照)。

 

「肩鎖関節」

肩鎖関節は肩甲骨の外側に張り出した骨(肩峰)と鎖骨の外側端で作られる関節です(図1参照)。

 

「胸鎖関節」

胸鎖関節は鎖骨の内側端と胸骨で作られる関節で、上肢が体幹とつながる唯一の関節です。

肩甲骨は鎖骨を介して、この関節を支点にして動きます(図1参照)。

 

「肩甲胸郭関節」

肩甲骨前面と肋骨で作られる胸郭との間の関節ですが、関節としての構造は持たず(関節軟骨などが無い)、肩甲骨が筋肉を挟んで肋骨の上をすべる構造をしています(図1参照)。

 

肩関節複合体の動き

肩関節のイメージは図2左の様なイメージを持っている人も多いと思います。

 

肩は肩甲上腕関節、肩鎖関節、胸鎖関節、肩甲胸郭関節の協力により、より大きく複雑で滑らかな運動を可能にしています。

 

これらの関節の何処に異常が現れても肩関節複合体全体に大きな問題を引き起こします。

  

「肩関節複合体と背骨・骨盤」


「肩甲上腕リズム」

肩甲上腕リズム

上肢を挙げる時に、肩関節(肩甲上腕関節)と肩甲骨(肩甲胸郭関節)は2:1の割合で連動して動きます。

 

上肢を180度挙上した時に、肩関節では上腕骨が120度動き、肩甲骨では60度上方へ回旋します(図3参照)。

 

この肩甲骨と上腕骨の一定の動きの割合を肩甲上腕リズムと言います。

 

ただし、ゆるやかな運動では上肢外転30~60度又は、上肢の屈曲60度までは肩関節のみで行われ肩甲上腕リズムは反映されないと言われています。

 

*急速な運動では運動の開始時点から肩甲骨が動き始めます。

 

体幹(背骨)の動き

又、120度以上挙上すると体幹(背骨)の反対側への屈曲が起こり上肢の挙上を助けると言われています(図4参照)。

 

しかし、体幹(背骨)、肩甲胸郭関節、肩関節は全運動範囲を通して同時に運動しているようです。

  
又、肩甲上腕リズムの運動の比率は関節運動の角度により変動するようです。

 

体幹(背骨)の動きも、上肢を挙上する前から無意識のうちに起こっています。

 

手を上げようと意識すると、上肢が動き始める前から、背骨をしならせて体幹を反対側へ傾け、それにより上肢挙上の為の起動力を発現し、重心を移動させながらバランスをとり、動きの中で体幹を安定させています(動的安定性)。

 

しかし、本人は肩甲骨の動きや体幹(背骨)の動きを意識していません。

 

*格闘技やスポーツで相手の動きを読み取る能力は、この無意識の動作を読み取っているのでしょう。

 

又、無意識に起こる体幹(背骨)のしなるような動きと、重心を移動する能力が格闘技やスポーツにとって重要な要素のように思われます。

 

この肩甲骨と体幹(背骨)のしなやかな動きが肩関節にとってはとても重要です。

 

肩関節が正常に動く為には、上肢の土台である肩甲骨が正常に動く必要があります。

 

その肩甲骨が正常に動く為には、肩甲骨の土台である体幹(背骨)が正常に動く必要があります。

 

体幹(背骨)と肩甲骨の動きが悪くなると肩関節がそれを代償し、肩関節には過負荷がかかります。

 

50肩になる人は姿勢が悪く、体幹(背骨)と肩甲骨の動きが悪くなっている人が多いようです。

 

インピンジメント症候群

もし、猫背で背骨の動きが減少している場合、腕を上げた時に肩甲骨は十分に動く事が出来ません。

 

この状態で手を上げて作業をすると肩甲骨の肩峰と上腕骨がぶつかり、その間にあるスジ(棘上筋腱、上腕二頭筋腱)やクッション(肩峰下滑液包)が挟まれて炎症を起こし肩に痛みを引き起こします(インピンジメント症候群、図5参照)。

 

又、猫背でなくても背骨に異常(ズレ)があると異常のある部分の最深層の筋肉(ローカルマッスル)が正常に働かず、代わりに表層の筋肉(背骨、骨盤から肩甲骨や上腕骨につながる筋肉)が代償して緊張し、背骨と肩甲骨の動きを妨げます。

 

側弯

図6のように骨盤がズレると仙骨が傾きます。

 

すると、仙骨の上の背骨には側弯(横の歪み)が生じます。

その結果、肩の高さに差が生じます。

 

*側弯が生じると横の歪みに加えて、前後の歪みと捻れも同時に生じます。

 

下がった側の肩は後下方へズレ、背部の筋肉は短縮し、前部の筋肉は伸張されます。

 

上がった側の肩は前上方へズレ、背部の筋肉は伸張され前部の筋肉は短縮されます。

 

この肩周りの筋肉のアンバランスにより肩に負担が生じ痛みの原因になる事もあります。

 

*片側の骨盤が小さい場合や片側の下肢の骨が短い場合は骨盤のズレが無くても仙骨は傾きます。

 

又、仙腸関節に異常が起こると、この関節を覆っている広背筋が反射性に収縮を起こして肩を引き下げ、肩の障害の原因になると言われています。

 

「肩関節複合体の神経支配」

肩関節複合体の大部分の筋肉は頸椎4~7番の間と頸椎7番と胸椎1番の間から出る神経により支配されています。

 

例外として僧帽筋(そうぼうきん)という筋肉を支配する神経は頭蓋骨の穴を通って出ています。

 

又、肩から上肢の血管へいく交感神経は胸椎2~7番(主に2番3番)の間から出ています。

 

中部・下部頸椎と上部胸椎の異常は、肩関節複合体に悪影響を与え、肩関節複合体の異常も中部・下部頸椎と上部胸椎に悪影響を与えると考えられます。

 

肩関節(50肩)の治療には、骨盤と中・下部頸椎と上部胸椎を中心に背骨全体のバランスを整え、体幹と肩甲骨の正常な動きを取り戻す事が大切です。