ハンター管症候群と鼠径部での絞扼性神経障害


絞扼性(こうやくせい)神経障害とは、脊髄を出て、手足などの末梢に伸びる神経(末梢神経)が、骨や靭帯、筋肉(筋膜)で作られた隙間(トンネル)を通る時に締め付けられて起こる神経の障害です。

大腿神経(伏在神経)・外側大腿皮神経の痛み・シビレの範囲

図1はおおよその神経の分布範囲を示す。

 

外側大腿皮神経の絞扼性神経障害は鼠径部外側(図1①)で起こり知覚異常性大腿痛(メラルジア・パレステジア)として良く知られている。

 

大腿外側部に焼けるような痛み、ピリピリする痛み、知覚過敏や鈍麻、冷たく感じる等の知覚異常を訴える(図1)。

 

この神経は、運動神経を含まない為、感覚障害のみで運動障害は起こらない。

 

鼠径部中央部(図1②)でも、比較的稀に大腿神経の絞扼性神経障害が起こる。

 

痛みシビレは大腿前面、膝内側、下腿内側に現れる(図1参照)

*伏在神経は大腿神経から分岐する。

 

大腿神経の運動麻痺では、膝を伸ばす力が弱くなり(大腿四頭筋麻痺)、歩行や階段の昇降が困難になる。

運動麻痺は知覚障害に続いて現れる事が多い。

 

太ももの下内側(図1③)での絞扼性神経障害はハンター管症候群と呼ばれ、伏在(ふくざい)神経が障害され、膝内側や下腿内側に痛み・シビレが現れる(図1参照)。伏在神経は運動神経を含まない為、運動麻痺は現れない。

 

「ハンター管症候群(内転筋管症候群)


内転筋管(ハンター管)・大腿三角

ハンター管(内転筋管)は、縫工筋下管とも呼ばれ、縫工筋の下に形成される血管や神経等を通すトンネルである(図2参照)。

 

内転筋管は大腿三角下縁(図2B 参照)から始まり、大内転筋の(内転筋)腱裂孔(図2A参照)に終わる。

 

内転筋管は次の筋肉によって形成される。

・後壁は長内転筋と大内転筋

・外側壁は内側広筋

・前内側壁は縫工筋

(図2参照)

 

縫工筋の下で大内転筋および長内転筋から内側広筋へ伸びる広筋内転筋板によって被われる部分を腱性内転筋管と呼び、それより上方の部分を筋性内転筋管と呼ぶ(図2参照)。

 

この内転筋管の中を大腿動脈、大腿静脈、大腿神経から分岐した伏在神経が通る(図2参照)。

 

内転筋管を形成する長内転筋、大内転筋、内側広筋、縫工筋に過緊張があると伏在神経が締め付けられて神経障害が生じる。

 

特に伏在神経が絞扼され易い部位

・伏在神経が大腿動脈と大腿静脈の上を横切る部位

・伏在神経と大内転筋腱との交差部(図3A参照)

・伏在神経が広筋内転筋板を下行膝動脈と共に貫通する部位(図2参照)。 

 

伏在神経の障害は、ハンター管内で起こる絞扼性障害よりも、縫工筋下部で起こる絞扼性神経障害の方が多い(図3A参照)。

 

縫工筋下部での絞扼部位

・伏在神経から分岐した膝蓋下肢が縫工筋を貫通する部位(図2参照)

・膝蓋下肢が縫工筋と薄筋の間を貫通し、縫工筋の後縁を迂回する部位(図3A参照)

・膝蓋下肢が縫工筋と大腿骨内側上顆の間を貫通する部位(図3B参照)

 

膝蓋下肢の損傷では膝内側に痛み・シビレが現れ(図1参照)変形性膝関節症や半月板損傷等の膝の疾患と間違われ易い。

 

伏在神経のもう一つの分枝である内側下腿皮枝単独の障害は稀であるが、大腿骨内側上顆部で縫工筋と薄筋に挟まれ障害される事があり、下腿内側に痛み・シビレが現れる(図1参照)。

 

内転筋管部の障害では伏在神経から分岐する膝蓋下枝と内側下腿皮枝の両方が障害され、膝内側から下腿から足内側に痛み・シビレが現れる(図1参照)

 

伏在神経は純粋な知覚神経なので運動麻痺は起こらない。

 

ハンター管症候群は大腿部の筋肉の過度の使用、骨盤、腰椎の異常によるハンター管を構成する筋肉の過緊張によって生じる。

 

又、膝のサポーターやテーピング、タイツ等の締め付け、外傷(打撲など)により生じる事もある。

 

神経の絞扼部には圧痛があり、その部を叩いて、その支配領域に疼痛が放散すれば障害部位を確認できる(ティネル徴候陽性)。

 

階段の昇降など、ハンター管を構成する筋肉に緊張が加わる時に痛みの増強を訴える事もある。

 

「絞扼性大腿神経障害」


大腿神経は第2から第4腰神経からなり、大腰筋と腸骨筋の間から現れて両筋の間の溝を下行した後、鼠径靭帯の下を通って大腿に出る(図4参照)。

 

大腿神経の絞扼性神経障害は、稀に鼠径靭帯の下で大腰筋や腸骨筋、鼠径靭帯の過緊張により生じる事がある。

 

*鼠径靭帯は外腹斜筋の腱膜により構成される。

鼠径靭帯には内腹斜筋や腹横筋も付着し、これらの筋の緊張により鼠径靭帯の緊張が高まると考えられる。

 

又、大腿内転筋群の緊張も鼠径靭帯の緊張に影響すると言われている。

 

大腿神経は大腰筋内を貫通する事もあり、大腰筋内で絞扼される可能性もある。

 

 その他、骨盤内の腫瘍、炎症、血腫(腸腰筋内)、医原性(手術等)、外傷、股関節の障害等で起こる事もある。

 

肥満によるお腹の出っ張り、妊娠、股関節を深く屈曲する習慣(足を組む等)、股関節の過伸展を繰り返す運動等も大腿神経障害の誘因になる。

 

痛み・シビレは大腿前部、膝から下腿内側に現れ(図1参照)、絞扼部には圧痛があり、ティネル徴候が陽性となる。

 

運動麻痺は膝の伸展障害(大腿四頭筋、縫工筋、恥骨筋麻痺)が主な症状で、歩行や階段の昇降等に障害が現れる。

 

股関節の過度の伸展(図5B、大腿神経伸展テスト)や股関節の過度の屈曲(図5A)により症状が増悪する。

外側大腿皮神経の走行

「絞扼性外側大腿皮神経障害」


大腿神経と外側大腿皮神経のテスト

外側大腿皮神経は第1、第2腰神経(主に第2)からなり、大腰筋を貫通して腸骨筋の表面を下行する事が多い。

 

この神経は通常、上前腸骨棘部内側で鼠径靭帯と腸骨筋や縫工筋の間を通る(図4A)。

これらの筋肉や靭帯の過負荷による緊張により外側大腿皮神経が絞扼され易い。

 

*腸骨下腹神経、腸骨鼡径神経、陰部大腿神経、閉鎖神経も大腰筋に隣接して走行するか貫通する為、絞扼性神経障害を起こす可能性がある。

 

その他、この神経が腸骨の上を乗り越え、腹壁の筋肉(腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋)を貫通する部分で、これらの筋の緊張や腸骨による圧迫、牽引、摩擦により障害される事もある(図4B)。

 

又、この神経が鼠径靭帯の下で縫工筋を貫通する事もあり、縫工筋の緊張によっても絞扼される事がある(図4C)。

 

ガードル、コルセット、ベルト等による圧迫、肥満や妊娠、足を組む等の習慣

も誘因となる。

 

絞扼部には圧痛があり、ティネル徴候陽性となる。

 

股関節を伸展し、内転させたり(図5C)、股関節を過度に屈曲(図5A)させると症状が増悪する。

 

図6は、神経根(脊髄から出て各背骨の出口(椎間孔)を通る神経)のおおよその分布領域を示す。

 

大腿神経と外側大腿皮神経の絞扼性神経障害は、L1~L4神経根症(腰椎椎間板ヘルニア等の背骨の出口での障害)による大腿部や下腿内側の痛み、膝の伸展力低下(大腿四頭筋麻痺)と鑑別が必要です。

 

*Lは腰椎を表す。

 

筋肉の神経支配

大腿四頭筋(L2~L4)、大腰筋と腸骨筋(L1~L3)、恥骨筋(L2,L3)、縫工筋(L2,L3)

 

L1~L4の神経根症では大腿四頭筋の麻痺による膝の伸展力の低下の他、大腰筋、腸骨筋、恥骨筋も麻痺し、股関節の屈曲力も低下する。

 

その他、筋肉からの関連痛も考慮する。

大腿四頭筋(TPによる大腿・膝・下腿の痛みの図3~8参照)、大腰筋と腸骨筋(TPによる体幹下部と下肢の痛みの図2参照)、縫工筋(TPによる大腿・膝・下腿の痛みの図2参照)、股関節の内転筋群(TPによる大腿・膝・下腿の痛みの図9~12参照)。

 

筋肉、腱、靭帯による絞扼性神経障害は画像では診断出来ないが、腰椎や骨盤の骨の変形、腫瘍や血腫等による神経の圧迫が疑われる時は、レントゲン、MRI、超音波検査等の画像診断が必要である。

必要に応じて筋電図検査も行われる。

 

 

「ハンター管症候群と鼠径部での絞扼性神経障害の治療」


まずは、骨盤、腰椎、胸椎、頚椎をチェックして全体のバランスを取るように矯正する。
鍼による全体の経絡の調節も行う。

 

腰椎、骨盤の異常は、下肢の配列(アライメント)に異常を引き起こし、骨盤内、大腿部、腹壁の筋肉に過緊張を引き起こす。

 又、下肢へ行く神経に炎症を起こし易くなる。

 

「局所的な治療」

ハンター管症候群:股関節の矯正、ハンター管を構成する筋肉とれらに関連する筋肉(拮抗する筋肉と共同して働く筋肉)の反応点への鍼治療や徒手による治療を行う。

 

鼠径部での絞扼性神経障害:股関節の矯正、大腰筋、腸骨筋、縫工筋、腹壁の筋肉(外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)とれらに関連する筋肉(拮抗する筋肉と共同して働く筋肉)の反応点への鍼治療や徒手による治療を行う。