トリガーポイント発生のメカニズムを理解する為には、筋収縮のメカニズムを理解する必要があります。
筋肉が収縮する時には、中枢神経(脳、脊髄)からの「収縮せよ」という電気信号(活動電位)が運動神経を介して筋肉(筋線維)に送られます。
この活動電位はさらに、筋線維の細胞膜から横行小管(図1、水色)を流れ、筋原線維の周囲を取り囲んでいる筋小胞体(図1黄色)に送られます。
筋小胞体に届いた活動電位により筋小胞体からカルシウムイオンが筋原線維内に放出されて筋収縮が始まります(図1参照)。
筋肉内の細い筋線維は、筋原線維の束からなり、筋原線維は多くの筋節(サルコメア)が直列に連なった構造をしています(図1参照)。
多数の筋節内には、アクチン(細い)とミオシン(太い)と呼ばれる線維状のタンパク質があり、アクチンがミオシン上を筋節中央に向かって滑る事により筋収縮(求心性収縮)が行われます(図1参照)。
*最大収縮時には筋節は弛緩時の半分の長さまで短縮します。
①ミオシン頭部にはATP(アデノシン三リン酸:エネルギー源)の加水分解により生じた、ADP(アデノシン二リン酸)とP(リン)が結合したままで、ミオシン頭部は収縮の準備態勢(プライミング状態:頭部の伸展)となっています(図2参照)。
カルシウムイオンが筋小胞体から放出されると、アクチンフィラメントに存在するトロポニンと結合し、アクチン上のトロポミオシンの位置がずれ、ミオシン結合部を露出させます。
*筋肉の弛緩時は、アクチン上にあるミオシン結合部はトロポミオシンによりふさがれています。
②ミオシン頭部が、露出したアクチン上のミオシン結合部に結合します(架橋形成:クロスブリッジ)。
③ミオシン頭部はADPとPを放出し、ミオシン頭部が振り子運動をしてアクチンフィラメントを筋節中央へ向かって滑り込ませます(パワーストローク)。
④パワーストロークが終わってもミオシン頭部とアクチンはしっかり結合したままです(死後硬直の状態と類似)。
⑤ATPがミオシン頭部と結合し、ミオシンはアクチンから離れます(弛緩状態)。
⑥ATPがADPとPに分解されてミオシン頭部に変化が起こり①の状態に戻ります(プライミング状態)。
*この時、カルシウムイオンが存在すれば、再度収縮を繰り返します。
中枢神経からの筋収縮の命令(活動電位)が無くなれば、筋小胞体からのカルシウムイオンの放出は止まります。
又、筋原線維内に放出されていたカルシウムイオンはATPのエネルギーにより、筋小胞体に取り込まれます。
*ATPの不足は、筋節の硬直の要因となります。
上記の様な運動神経を介した筋収縮は筋線維全長の収縮を引き起こします。
筋膜トリガーポイントは筋線維(筋節)の部分的な収縮です。
筋膜トリガーポイントは、急性又は慢性の要因など、多数の要因により発生します。
様々な要因により、筋線維が部分的に損傷を受けると、筋小胞体の一部も損傷を受けて、貯蔵カルシウムが損傷部周辺に漏れて出てくる事があるようです。
又、筋小胞体の損傷により、損傷局所のカルシウムの吸収能力も低下します。
過剰なカルシウムイオンとATPが筋原線維内にあると、筋節は局所的な収縮を続けてATPを消費します。
*局所的収縮はカルシウムイオンとATPがある限り、活動電位(中枢神経からの命令)が存在しなくても続きます。
又、筋節の収縮により筋線維が膨らみ、筋肉内の毛細血管はふさがり、血流の低下が起こりATPの合成が低下します。
*筋肉は非常に多くのエネルギー(ATP)を使うので、多量の血液供給を必要とします(ATPは主に血液中のブドウ糖と酸素により合成されます)。
筋線維の損傷は、筋線維内の小血管からの出血を招き、血小板からセロトニン、肥満細胞からヒスタミンなどの物質が漏れだし、ブラジキニンなどの発痛物質を蓄積させます。
損傷した細胞からはプロスタグランジンが合成され、カリウムイオン、水素イオンなどの発痛物質が放出され痛みをもたらします。
これらの発痛物質による感覚神経(侵害受容器)への入力は、反射性筋収縮を引き起こし、更に交感神経を刺激して血管収縮を促し、ATPを更に枯渇させます。
図2の⑤の様に、筋肉を弛緩させる為にはATPのエネルギーが必要です。
ATPが枯渇すると図2の④の様に筋肉は弛緩できなくなり、硬直状態に陥り、触診可能な硬結(しこり)として触知されるようになります。
筋膜トリガーポイントは、上記の様に筋収縮(しこり)による代謝の増大と局部的な血流低下による循環の減少の部位であり、発痛物質により侵害受容器が過度に過敏になった部位の様に思われます。