骨格筋の総重量は、体重の40%以上を占め、人体において最大の質量を持つ器官です。
骨格筋の中に生じる筋膜トリガーポイントの有病率はかなり高く、あらゆる場所に痛みや様々な症状を引き起こします。
筋膜トリガーポイントは、一般医療機関では殆ど知られてなく、レントゲン、MRI、血液検査などの一般的な検査では診断が出来ません。
その為、椎間板ヘルニアや関節の疾患などの他の疾患と間違われる事が多いようです。
筋・筋膜トリガーポイントは、筋肉や筋膜が部分的に過度に収縮した状態で、筋肉内で過敏になった緊張帯(押すと痛むしこり)として触れます。
*筋線維内には痛みを検知するセンサー(侵害受容器)はありません。
トリガーポイントは、筋線維の過緊張により筋膜に存在する侵害受容器が過敏になった状態です。
トリガーポイントからの痛みはトリガーポイントの存在する場所だけではなく、離れた場所(関連区域)にも放散するのが特徴です(関連痛)。
緊張帯を圧迫するか、又は鍼で刺すと関連痛が増強し放散します。
*罹患筋(トリガーポイントを含む筋肉)の過度の伸張や強い収縮によっても関連痛が増強し放散します。
トリガーポイントの直訳は「引き金点」で、銃の引き金を引くと弾丸が遠くへ飛んでいくように、トリガーポイントを刺激すると、遠位部の関連区域にまで痛みが放散する事を表現しています。
そして、その関連痛(放散痛)は、各筋肉に特有の特定パターンに従って離れた場所(関連区域)に放散します。
筋膜トリガーポイントから放散される痛みのパターンは、神経学的パターンや、内臓からの関連痛パターンとは一致せず、独自のパターンで放散します。
関連痛の強さや分布範囲の広さは、トリガーポイントの過敏さ(活性化の強さ)に依存します。
そして、関連痛は最も活性化(過敏化)したトリガーポイントからの症状を示し、そのトリガーポイントが取り除かれると、次に活性化の強いトリガーポイントによる関連痛が現れる傾向があります(広汎性侵害抑制調節:DNIC)。
又、トリガーポイントは筋・筋膜以外にも、皮膚・腱・靭帯・関節包・骨膜・脂肪組織などの結合組織(膜組織)にも出現します。
関連痛以外の症状
・知覚過敏(しびれ)・異常感覚・感覚鈍麻などの感覚障害
・結膜の充血、流涙、内臓の機能障害、関連区域内の血管収縮または拡張(皮膚温の変化)、発汗、立毛などの自律神経徴候
・めまい、ふらつき、耳鳴り等の前庭や固有受容の乱れなど
トリガーポイントの筋線維を指で弾いたり、指で丸めるように触診したり、又は鍼を刺した時に筋線維に痙攣(ひきつり)が起こる事がある。
これは1秒間ほど持続する。
トリガーポイントの圧迫により飛び上がり悲鳴を上げる事がある。
関連痛を感じている部位(関連区域)を被う皮膚は触診に対しても過敏で、皮膚描画症が現れる事もある。
トリガーポイントによる筋肉の短縮は、関節の可動域を制限する。
寝ている時にトリガーポイントが体重で圧迫されると、しばしば睡眠が妨げられる。
筋膜トリガーポイントが患部の筋や筋膜の短縮を引き起こし、二次的に末梢神経を絞扼(圧迫)し神経障害を起こす事もある(絞扼性神経障害)。
神経が絞扼されると、絞扼された神経の末梢の分布範囲に痛み・しびれ・麻痺などが現れる。
トリガーポイントによる痛みや上記の症状を引き起こす症候群は、筋・筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome.MPS)と呼ばれています。
「好発年齢」
活性トリガーポイントを持つ可能性は年齢と共に増加し、中年において最も活性トリガーポイントが増加します。
それ以上の年齢になると活動量が減り、活性化は弱まり、潜在性トリガーポイントに移行します。
潜在性トリガーポイントの増加により、筋肉の硬直による動作の制限や筋肉の衰弱が現れる傾向があります。
急性の要因:直接の外傷、筋肉の急激な過伸展や強い収縮などの損傷後に発生する。
慢性の要因:反復運動(使いすぎ)、姿勢の悪さ(骨格の歪みなど)、筋肉の持続的な圧迫、短縮、伸張(長時間同じ姿勢、背骨・骨盤のズレ)などで発生する。
その他の要因:冷え、栄養状態の悪化、心理的要因、炎症部位、風邪などの感染症なども影響する。
又、他のトリガーポイント、内臓疾患、関節の障害、神経の絞扼などにより間接的に生じる事もある。
*トリガーポイントは、これら色々な要因の組み合わせにより生じる事が多い(悪い姿勢での反復動作、筋肉疲労後の冷えなど)。
痛みなどの症状は現れません。硬結部分(しこり)を押すと痛みを感じますが、関連痛は生じません。
筋硬結は、他の部位に関連痛を生じさせない為、引き金点としては機能しません。
安静にしていても痛みや上記の症状を生じます。
その圧痛部位を圧迫すると関連痛が増強し放散します。
活性筋膜トリガーポイントは完全に自然治癒する事はなく、潜在的トリガーポイントに移行するに過ぎません。
それも過伸展や短縮、筋疲労、長時間不動後の急な動き、冷えなどの僅かな過負荷により再び活性化されます。
痛みなどの症状は生じさせません(休止状態)。その圧痛部位の触診でのみ圧痛と関連痛を生じます。
潜在性膜トリガーポイントは、動作を制限させ、筋肉を衰弱させます。
又、何年にもわたり持続して存在し、僅かな過負荷により再び活性化されます。
潜在性筋膜トリガーポイントは、治療により完全に不活性化されない限り関連痛の発生源として永久に維持されます。
骨格筋には相当な数の潜在性トリガーポイントが存在すると言われています。
急性又は慢性的な過負荷などにより、最初に生じるトリガーポイントです。
他のトリガーポイントの影響により生じたものではない。
「随伴的(サテライト)筋膜トリガーポイント」
一次的筋膜トリガーポイントの関連痛区域内で生じる。
関連痛区域内の関連過敏による筋緊張や血管収縮による循環不全により生じる。
*内臓疾患や関節機能障害による関連痛区域、神経の絞扼による痛み・しびれの領域にも生じる事が有る。
一時的筋膜トリガーポイントを含む筋肉の共同筋と拮抗筋に生じる。
共同筋は、一次的トリガーポイントを含む筋肉を保護する為に過剰に働き、拮抗筋は一次的トリガーポイントの緊張に対抗する為に過剰に働き過負荷となる。
関連筋膜トリガーポイントによる連鎖反応が症状を複雑にし、治療を困難にする。
レントゲン、MRI、血液検査などの一般的な検査では診断が出来ない為、診断は触診と関連痛パターンを参考に行われます。
触診により圧痛のある硬結を確認し、圧迫により症状を訴えている部位に関連痛が放散、又は増強するかを確認します。
その硬結を治療により不活性化させる事で症状が改善されれば診断は確定します 。
*トリガーポイントを記載した文献には、最も一般的なトリガーポイントの場所しか示されていません。
文献に記載されていない場所にもトリガーポイントが存在し、トリガーポイントの部位や関連痛の範囲も、各人ごとに多少異なります。
又、関連痛パターンの現れ方も、トリガーポイントの活性化の度合いにより異なります。
ストレッチ&スプレー:トリガーポイントを含む筋肉を、冷却スプレーで皮膚を刺激しながら、他動的にストレッチを行う。 これを3~5回繰り返す。
*拮抗筋が短縮される為、反動が生じ、拮抗筋内の潜在性トリガーポイントが活性化する事がある。
等尺性収縮後リラクゼーション:トリガーポイントを含む筋肉を、他動的に最大限伸張する。その肢位で抵抗を加え筋肉を3~5秒間収縮させる。その後、リラックスし再度、ストレッチを行う。これを3~5回繰り返す。
虚血圧迫:トリガーポイントを持続的に圧迫する(15秒~1分程度)。
これを3~5回繰り返す。
トリガーポイント注射とストレッチ:トリガーポイントに注射後、ストレッチを行う。
上記の治療後、自動運動を最大可動範囲で行う。
これらの治療が、文献では推奨されています。
トリガーポイントは筋肉の局所的な短縮や筋膜の部分的な肥厚や癒着で生じます。
全体的な筋・筋膜のストレッチよりは、トリガーポイントに直接アプローチする治療の方が効果的です。
鍼治療は、トリガーポイント注射と同等の効果があると言われています。
薬剤を使わず、鍼も注射鍼より遥かに細いため、体に優しく効果的な治療です。
姿勢の悪さ(骨格の歪みなど)の矯正は、筋・筋膜への力学的負荷(過剰な張力や短縮)と神経学的負荷(不十分な神経支配や反射)を取り除きます。
骨格の歪み(背骨・骨盤のズレ)は、トリガーポイントの発生の最も大きな素因となります。
やまだカイロプラクティック院・鍼灸院
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